【スポーツインフォメーション堺 Vol.16】
●ヘルス インフォメーション/運動の害について
「健康の保持・増進のために運動をしましょう。」と言われだして、何年になるだろうか。せいぜい20数年くらいであろう。ただ、ここ10年位は、それまでのジョギングブームから始まり、ウォーキングブームと、日常的に、運動を行う人が確実に増加している。また、ここ数年、マスコミ特にテレビ番組で取り上げられることが多く、その影響も、計り知れない。
また、厚生労働省(旧厚生省)文部科学省(旧文部省)の施策でも様々な取り組みが行われている。その背景には、いろいろなことが考えられるが、運動(身体活動)が、心身の健康に及ぼす影響というものは、少なからずあるようだ。特に、中年以降(いつから中年かということには、問題があるが?)日常的に運動している人と、そうでない人では差があるようである。また、一時期話題になった、小中学生における生活習慣病(*1)の出現も運動(だけではないが。)との関係が大きいようである。その意味では、人々の意識が健康と運動に向いていることは、喜ばしいことである。日常的にジョギングやウォーキングをしていなくても週1回あるいは月1回でも機会があれば身体を動かそうと考えておられる人も増えてきていると思われる。
しかし、昨年末から今年始めにかけて、マラソン大会で3名の方が、亡くなられるというショキングな出来事があった。運動との因果関係は定かではないが、ひとつの警笛かもしれない。
この号が出る頃には、プロ野球も終盤を迎えていると思う。また、来年はオリンピックの年であり、様々な競技で、多くのトップアスリートがオリンピックを目指し活躍されている時期かもしれない。プロスポーツ選手や、トップアスリートといわれる人々は、一般のスポーツ愛好家と目的は違うが、運動のスペシャリストである。最近では、スポーツ医学の発達により、より効果的に、より安全にトレーニングが、行われるようになってきた。また、選手の健康管理にも、栄養士・医師など多くのスタッフが係わるようになってきている。これは、普段のトレーニングにおいてもそうであるが、特にハードトレーニング期に、障害や疾病になる率が高いからである。
私たちは、漠然と彼らは、障害や疾病とは、無縁だろうと、思っている。しかし、現実には常に障害や疾病と背中合わせであり、場合によっては、慢性的に腰・膝・肩などに障害を抱えている人も多い。また感染症(*2)に罹り易いというデータもあるようだ。
このことは、一般のスポーツ愛好家(ジョガー・ウォーカーも含めて)も常に注意する必要がある。テニスなどラケット種目では肘痛・肩痛、ジョガー・ウォーカーの膝痛・アキレス腱痛などの使い過ぎ症候群(*3)である。また、腰痛にも注意する必要がある。こういった痛みがひどくなってくると、運動することが困難になるだけでなく、日常生活にも影響してくる。
自分の影響のため、週2~3日20分程度のジョギングから始めた人が、走ることの楽しさを覚え、10kmマラソン・ハーフマラソン・フルマラソン・100kmマラソンやトライアスロン(*4)などの大会に参加するようになる。また、15分程度の散歩から始めた人が、さまざまな歩こう会に参加していく。今や、100kmマラソン・フルトライアスロン・50km3dayの歩こう会などが開催され、多くの一般のジョガーやウォーカーが参加するようになっている。ここまで行くと極端な例かもしれないが、運動を続けるには、達成感というものが必要になる。目に見える成果である。また、目標を持つことも継続には、効果がある。
1kmを5分でジョギング5kmや、1kmを10分でウォーキング3kmまた、今度の大会で完走・完歩したい。こんなはっきりとした目安でなくても、最初5分もジョギング出来なかったのに、今では、20分位は平気だ。最初30分では歩けなかった距離が、今では、余裕で歩けるようになったのである。しかし、これもエスカレートしていくとそのことが重荷になり、続けることが苦痛になり、ひどい場合には、体調を壊す原因になることが多々ある。これもまた運動の害である。
運動は、確かに健康の維持・増進のためには、食事と休養とともに、3本柱のひとつである。運動と食事は、さまざまな生活習慣病を予防するのに大事な要素であり、運動と休養は精神的ストレスからの開放に有効である。今の、生活習慣病において定期的に運動することは大事なことである。しかし、その運動の質と量については、常に気を付けなければならない。「健康の保持・増進のために運動をしましょう」から「楽しく運動をして、健康を保持しましょう」である。そのためには、自分の身体の状態に応じて質と量を調整することである。次回は、このあたりのことについて考えてみたい。

*1/生活習慣病
平成8年の講習衛生審議会で提言された概念で「食生活、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その病気の発症・進行に関与する疾患群」と定義されている。インスリン非依存性糖尿病・肥満・高脂血症・高尿酸血症・循環器疾患などがあげられる。〈臨床スポーツ医学vol.16 1999〉
*2/感染症
ウイルスなどの微生物が人体または動物の中に侵入して、臓器や組織の中で増殖することを感染といい、その結果として生じる病気を感染症という。〈南山堂 医学大辞典〉
*3/使い過ぎ症候群
骨・関節・筋肉を過度に使用すると、それら組織の局所に材料疲労といえるような損傷が起こることがあり、これらを総称して使い過ぎ症候群とよぶ。〈臨床スポーツ医学vol.16 1999〉
*4/トライアスロン
アイアンマンレース(鉄人レース)という別名が付けられている。レースの内容は、まず水泳(スイム)からスタート。次に自転車(バイク)で最後にマラソン(ラン)を行いそのタイムを競う。フルトライアスロンは、スイム3,9kmバイク179,2kmラン42,195kmで行われる。現在、世界の主流になっているのは、インターナショナル・スタンダード・タイプと呼ばれるもの。これは、スイム1,5kmバイク40kmラン10kmで行われる。〈レジャー・スポーツ情報辞典〉