【スポーツインフォメーション堺 Vol.18】
●特集/もう一つのオリンピック『パラリンピック』
全日本車椅子バスケットチーム監督 高橋 明
プロフィール
1951年11月15日生まれ。大阪市出身。74年大阪体育大学卒業後、社会福祉法人大阪市障害者福祉・スポーツ協会に入社。長居障害者スポーツセンター・舞洲障害者スポーツセンター勤務を経て、現在スポーツ振興部スポーツ課長。1989年より大阪体育大学、2004年より大阪府立看護大学非常勤講師。

1998年 長野冬季パラリンピック 日本選手団副総務
2000年 シドニーパラリンピック 日本選手団車椅子バスケットボール競技総監督

「共に生きる:障害者のスポーツを通して」(単著・文芸者)
「障害者とスポーツ」(単著・岩波書店)

オリンピックイヤーの今年、もう一つのオリンピック「パラリンピック」も同じアテネで、9月17~28日の12日間にわたって熱い戦いが繰り広げられます。
パラリンピックは、障害のある人のオリンピックです。1960年(昭和35年)のローマ大会から開催されており、今年のアテネで12回目を迎えます。
パラリンピックも回を追うごとに大会規模が膨らみ、今回は、130ヵ国・地域、6000人が参加する予定です。日本選手団も過去最高の選手・役員261名が参加する予定です。
この大会を「もう一つのオリンピック」と呼ぶ由来は、第8回ソウル大会(1988年)から言われています。障害のある人が、残っている機能を最大限に使い、素晴しいパフォーマンスを発揮する姿は、見ている者にとって、夢と感動を与えます。そして、彼らの限界への挑戦する姿は、そこに人間の可能性をみることができます。
実施競技は、視覚障害者を対象にした5人制サッカーや女子柔道、シッティングバレーボール女子、車椅子テニス・クアッドクラス(四肢麻痺者のクラス)が新種目で加わり、陸上競技、水泳、アーチェリー、ボッチャ、自転車、馬術、サッカー、ゴールボール、柔道、パワーリフティング、フェンシング、射撃、卓球、シッティングバレーボール、車椅子バスケットボール、車椅子フェンシング、ウィルチェアーラグビー、車椅子テニス、セーリングの19競技に熱い戦いが繰りひろげられます。
いくつかパフォーマンスの例をあげてみますと、男子100m競走も視覚障害、全盲の部で11秒3が世界記録です。目を瞑ってまっすぐ歩くだけでも難しい世界で走ります。また、事故等で両足の膝から下を切断した人が、両足に義足をつけて、100mを11秒36(世界記録)で走ります。片脚だけになると11秒07です。今年のアテネでは、10秒台が出るのではといわれるぐらい義足の世界には、驚かされます。
片脚の大腿部から切断している走り高跳びの選手は、「走り高跳びは両足で踏み切ったらルール違反だから、もともと片脚なのだから違反はしていません」と障害のない人に混じって大会に出場し、1m92㎝の高さを跳びます。腕の力だけで走る車椅子マラソンの世界記録は、1時間20分14秒です。足で走るマラソンの世界記録は2時間5分台、それよりも45分ほど速いのにも驚かされます。
しかし、こんなに素晴しい運動能力を持った車椅子選手でも、車椅子だと20㎝の溝や20㎝の段差があれば、前に進めません。介助が必要なのです。車椅子の人をひとまとめに考えるのは、大間違いです。
すべての人は、それぞれの身体的な個性、特性をもって生きています。また、身体的な個性、特性によって不便さも違います。それらを互いに認め、支え、喜びに変え、力に変え、共に生きることがノーマライゼーション社会の実現に向けて大切なのです。
話は、パラリンピックからそれましたが、最近のパラリンピックは、オリンピックと密接な関係にあります。今年のアテネ大会も、オリンピックの組織委員会がパラリンピックを運営します。それにともなって、いろいろな問題点も出てきています。どうしてもメダルを意識する余り、勝ち負けにこだわり、「勝つ」ということ「勝手何かを得る」ということが、いろいろな問題を起こします。メダルの価値観、ドーピング、クラス分け等々、そして重度の障害者が取り残されていることにもなりかねません。いろいろと問題点もありますが、それはまたにして、パラリンピックの世界は、本当に人間の可能性、やる気、感動を呼び覚ませます。
パラリンピックの生みの親、グットマン博士が残した言葉「失った機能を数えるな、残った機能を最大限に活かせ。」これは、我々に、何ができないかではなく、まず考えることが大切ですよと語りかけてくれています。その中で、「ちょっとした工夫で、同じスポーツができる」のが障害者スポーツなのです。
障害者スポーツは「まず見る」こと、それが「障害者を知る」ことになり、障害者のスポーツ振興と理解につながると、常々考えられています。
パラリンピックアテネ大会は、アテネに行って応援するのも嬉しいですし、NHKテレビも放送を予定しています。ぜひ、ご声援くださり、人間のパフォーマンスの素晴しさに、一緒に感動しましょう。